2018年2月12日月曜日

今日の絶滅器具種 5


タイトルの漢字が間違っていると思われるかも知れない。普通は絶滅危惧種と表記するのだが、ここで取り上げるのは、昔は沢山存在していたのに最近あまり見かけなくなった道具類だから絶滅器具種としてある。

 さて、今回取り上げるのはこれである。


   「電工ナイフ」









  電工ナイフとは、主に電力線や電話線等の工事の際に、絶縁線の合成樹脂製の被覆を削ったり切り裂いたりして、内部の導線を露出する為の道具である。
  しかし最近は、ワイヤーストリッパーを用いる事が一般化し、ナイフを使う人が少なくなった。
  今はもうホームセンターや金物屋で電工ナイフを取り扱って無い店も多い。
   

 少し前まで見かけた一般的な電工ナイフ









  普通の電工ナイフは、折りたたむ事はできるがロック機構の無い背バネ式で、刃の先端は尖っていない。柄の素材は木で出来た物が多いが一部プラスチック製もある。刃の断面形状はホローグラインドの物が殆んどだが、古い製品の中にはフルフラットグラインドの物もあった。


   フルフラットグラインドの電工ナイフ











   中には鋸がついた物や、











  刃の形の変わった物もある。











  もう少し古いタイプの電工ナイフ。
  刃先が尖っている物が多い。それから、柄の部分が牛骨製の物もある。









   そもそも、日本の電工ナイフは、電気工事の為に特化したナイフではない。        元々存在していた折りたたみ式ナイフに「電工ナイフ」という新たな用途と名称を与えたに過ぎない。
  その起源は、西洋の船乗り達が用いていた、主にロープを切断したりする為の汎用ナイフだった。
  それが明治以降の日本の近代化に伴って海軍の装備に採用され、「海軍メス」と呼ばれて普及する事になる。

   「海軍メス」
    柄の部分は鹿角製が多いが、牛骨製もある。 









  そして、日本の敗戦によって需要を失った海軍メスはその後、名称を変え、姿も少しずつ変えながら何とか生き残ってきたのだが、やがてナイフに対する社会の風当たりはだんだん厳しくなって行く。それは、未成年によるナイフを使った犯罪がマスコミに報道され、問題視されたからだ。
  店頭で堂々とナイフを売る事が次第に難しくなり、折りたたみのナイフが日本で唯一活路を見出だした場が、電気工事という用途だった。電工ナイフという名称なら、工具売り場に置いてあっても何の問題も無い。実際に電気工事に使用するかどうかはあまり重要では無かったから、用途を限定しない何にでも使えるような形状を保ってきたのだろう。
   電工ナイフが生まれ、生き残ってきたのは、ナイフを作る側、売る側、そして使う側の都合がぎりぎりの所で噛み合った結果だったのではないだろうか。
  

  ちなみに、西洋の電工ナイフともいえる「エレクトリシャンナイフ」は、こんな形をしている。

   第二次大戦中の米軍通信兵用ナイフ、「TL-29」











  それから参考までに、戦後イタリア海軍で使われていた軍用ナイフ。









  このままだと近い将来電工ナイフは絶滅するだろうと思っていたのだが、最近ジェフコムという会社からこんな電工ナイフが売り出された。










  ホローグラインドで先が尖って無い事など刃の形状は共通しているが、他はだいぶ変わってしまっている。サムスタッドやクリップやライナーロックがついて、最近のアメリカのタクティカルナイフのようになってしまった。勿論この方が便利で使いやすいのは確かだし、日本製のナイフが形を変えてでも生き延びてくれれば有り難いのだが、果たしてこれらを電工ナイフと呼んで良いのだろうか。
  

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