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2022年3月2日水曜日

草臥しの騎士


 

最近読んだ本。

ハヤカワ文庫SF
「七王国の騎士」
〈氷と炎の歌〉
ジョージ・R・R・マーティン
酒井昭伸 訳


2020年1月25日発行
株式会社早川書房


   2015年に発行されたGeorge R.R.Martinによる“A Knight of the Seven Kingdoms”の全訳。アメリカの大手ケーブルテレビ局、HBOによって製作されたテレビドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」(2011~2019)の原作小説「七王国の玉座」の約100年前の時代の物語。舞台は同じ「ウェスタロス大陸」という架空の世界。放浪の騎士「ダンク」と、その従士「エッグ」の冒険譚。収録作は以下の中篇3話。

「草臥しの騎士」
“The Hedge knight”
(初出は1998年)

「誓約の剣」
“The Sworn Sword”
(2003)

ミステリ・ナイト
「謎の騎士」
“The Mystery Knight”
(2010)

    ジョージ・R・R・マーティンの作品はどれもハズレが無く面白い話ばかりなのだが、執筆以外の仕事をする事が多いせいか、なかなか新作が出てこない。ドラマのゲーム・オブ・スローンズは完結したのに、原作の続きはずっと待たされっぱなし。早く第6部の「冬の狂風」が読みたい。







2021年8月22日日曜日

影よ、影よ、影の国

 


最近読んだ本


ソノラマ文庫〈海外シリーズ〉⑥
「影よ、影よ、影の国」
《怪奇とファンタジーのスタージョン傑作選》
シオドア・スタージョン
村上 実子  訳


昭和59年8月31日  初版発行
株式会社 朝日ソノラマ

  アメリカの小説家、シオドア・スタージョンの日本で独自に編纂された傑作短篇集。

収録作品、原題、掲載誌、発表年代は次の通り。

「影よ、影よ、影の国」SHADOW,SHADOW,ON THE WALL(IMAGINATION STORIES  1951-2)
「秘密嫌いの霊体」BLABBERMOUTH(AMAZING 1947-2)
「金星の水晶」SPECIAL APTITUDE(OTHER WORLDS 1951-3)
「嫉妬深い幽霊」GHOST OF A CHANCE(SUSPENSE 1951-8)
「超能力の血」TWINK(GALAXY 1955-8)
「地球を継ぐもの」LIKE YOUNG(F&SF 1960-3)
「死を語る骨」THE BONES (UNKNOWN 1943-8)

   この中で表題作の「影よ、影よ、影の国」と「地球を継ぐもの」は他の短篇集にも掲載されていて読んだ事があったが、それ以外は初めて読んだ作品だった。最後の「死を語る骨」はジェームズ・ベアードとの合作らしい。どの作品もいかにもスタージョンといった感じの物語ばかりで、村上実子さんの読みやすい訳文のおかげもあってか期待を裏切らない内容だった。








2021年3月9日火曜日

端役達

 

ハヤカワ文庫 SF
ビット・プレイヤー
グレッグ・イーガン



2019年3月25日発行
株式会社 早川書房



    オーストラリア出身のSF作家、グレッグ・イーガン(Greg Egan)の短篇集。
収録作は以下の6篇。


「七色覚」
“Seventh Sight” (2014)

「不気味の谷」
“Uncanny  Valley”  (2017)

「ビット・プレイヤー」
“Bit Players”  (2014)

「失われた大陸」
“Lost  Continent”  (2008)

「鰐乗り」
“Riding  the  Crocodile”  (2005)

「孤児惑星」
“Hot  Rock”  (2009)



    グレッグ・イーガンの作品の舞台設定は、かなり綿密な理論的裏付けがあり、しかも作品中でそのほとんどが具体的に説明されているので、その内容について精査しながら読み進めていこうとすると読了するまでに相当時間がかかってしまう。でもスマホの仕組みが解らなくてもスマホが使えるように、細かい点にこだわらずに読み進めてもじゅうぶん物語を楽しむ事が出来る。ただ、最近の作品をいきなり読むよりは、古い作品から読み始めた方が幾分理解しやすくなるとは思う。個人的にこの本の収録作の中で好きなのは最後の2作品、「鰐乗り」と「孤児惑星」だ。たとえ何回生まれ変わっても現実では成し得ないような未知の宇宙への大冒険を主人公と一緒に楽しませてもらった。


   ※グレッグ・イーガンは1961年、オーストリア生まれ。数学の理学士号を持つ。







2021年2月8日月曜日

量子グラフ理論

 
ハヤカワ文庫SF

シルトの梯子
グレッグ・イーガン
[訳]  山岸 真



2017年12月25日発行
株式会社早川書房


    アメリカとイギリスで2002年に刊行されたGreg Egan の“Schild’s Ladder” の全訳。のっけから「サルンペト則」だとか「量子グラフ理論」だとか訳の分からない単語が出て来てイーガン節が炸裂しているが、意味不明な言葉をスルーしてそのまま読み進めていくとだんだん面白くなってくる。(結局最後まで読んでも意味は判明しないのだが)

   物語の舞台はだいたい2万年後の宇宙。すでに人類は進化の過程で本来の肉体を失っていて、人工的な肉体を入手するか、仮想空間で生きるかを選択する事が出来る時代。量子グラフ理論の研究者であるキャスの実験が予想外の結果を招き、新たな宇宙を生み出してしまう。「ファーサイド」と呼ばれるその観測不能の宇宙は人類の住む宇宙「ニアサイド」を光の50%の速度で侵食していく。その605年後、境界面のすぐ近くでファーサイド内部を観測する為に、観測船「リンドラー」に乗り込んだチカヤは目的の異なるふたつの派閥の抗争に巻き込まれる。

    この物語の世界の登場人物達は滅多に死ぬ事がない。人工的な肉体は再生が可能だし、記憶をコピーして保存しておけるので、主人公のチカヤも4009歳という高齢である。他の恒星系に旅行する時は記憶と肉体のデータだけを送信して、肉体は現地で培養なり改造なりされたものを使う。そういった記憶こそがアイデンティティだという考え方についてはチカヤ本人も9歳の頃に疑いを抱き、父親に悩みを打ち明けている。その時父親が教えてくれたのがタイトルの「シルトの梯子」なのだが、それについては本文を読んで初めて知った。

     後半、物語は意外な方向に展開していくのだが、最後がちょっと尻切れトンボで、あとは読者の想像にお任せします的な結末だった。膨張していたファーサイドがその後どうなったのか分からないが、この話の後で書かれた「白熱光」では普通に銀河系が存在してるので、このふたつの物語が同じ世界の話ならば、境界面の侵攻は止まったという事なのかも知れない。



2020年12月27日日曜日

無常の月

 

最近読んだ本


ハヤカワ文庫SF
ザ・ベスト・オブ・ラリイ・ニーヴン
「無常の月」
ラリイ・ニーヴン



2018年3月15日発行
株式会社 早川書房


    アメリカSF小説界の大御所、ラリイ・ニーヴンの作品を集めた、日本独自の短篇集。1979年にも同タイトルの短篇集がハヤカワ文庫から出ているが、今回出版されたのはその再版ではなく、収録作7篇の内、重複は2篇だけ。それ以外の4篇は他の短篇集に収録されていた作品で、残る1篇はSFマガジンに掲載されていたもの。つまり、新訳は全くない。自分にとって初めて読む短篇は2作品だけだったにもかかわらず、全ての作品を楽しんで読む事が出来た。ラリイ・ニーヴンの小説はやはり何度読んでも面白い。


2020年4月11日土曜日

紛争調停人


最近読んだ本

創元SF文庫
火星の遺跡
ジェイムズ・P・ホーガン 著
内田昌之  訳


株式会社東京創元社
2018年12月21日  初版発行


    2010年に亡くなったSF小説界の巨匠、ジェイムズ・P・ホーガン(James  P. Hogan)が2001年に発表した`Martian  Knightlife´の翻訳。物語の舞台は人類が太陽系全域に版図を拡げた後の未来の火星。主人公は通称ナイトことキーラン・セインという謎の多い人物。巻末の解説を担当しているSF評論家の礒部剛喜氏によれば紛争調停人となっているが、実際のところは悪を懲らしめる詐欺師と言った方が正しいかもしれない。物語は二部構成になっていて、第一部では人体の転送技術を開発した科学者の身に起こった奇妙な出来事を、第二部では火星で見つかった遺跡を発掘している考古学者が見舞われたトラブルを、主人公が持ち前の頭脳と口先と変装術を駆使して解決する痛快な話となっている。日本語タイトルは「火星の遺跡」となっているが、火星の古代文明の謎を解明する話ではないので、あの「星を継ぐもの」(著者のデビュー作)のような展開を期待して読むと裏切られる事になる。著者の文体はどうでも良いような細部に拘りすぎる傾向があって読み進めるのが少し疲れる部分もあるが、物語や登場人物にリアリティをもたらす為には不可欠な要素なのだと思う。




   ところで、創元SF文庫って昔は創元推理文庫だったと思うんだけど、いつの間に変わったの?

2020年3月8日日曜日

夜に翔ぶものたち


最近読んだ本

ハヤカワ文庫
ナイトフライヤー
ジョージ・R・R・マーティン


酒井昭伸=訳
2019年5月15日
株式会社早川書房発行

   アメリカのTVドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の原作者として有名なジョージ・R・R・マーティンの第5短編集「Nightflyers」の全訳。オリジナルは1985年発行。収録作品は以下の6篇。


   「ナイトフライヤー」`Nightflyers´ (執筆1978年、初出1980年)

  「オーバーライド」`Override´(1972、1973)

  「ウィークエンドは戦場で」`Weekend in a War Zone´(1973、1977)

    「七たび戒めん、人を殺めるなかれと」  `And Seven Times Never Kill Man´(1974、1975)

  「スターリングの彩炎をもってしても」`Nor the Many-Colored Fires of a Star Ring´(執筆年不明、初出1976)

   「この歌を、ライアに」`A Song for Lya´(1973、1974)



    壮大かつ緻密な舞台設定、個性的な登場人物達、スリルとサスペンスに満ちた、多様で中身の濃い物語、異世界を瑞々しく活々とした筆致で、まさしく目に浮かぶように描写している。どの作品も小説である事を忘れてしまう程、物語の中に引き込まれてしまった。文章が脳内で極彩色の映像になり、血や汗の匂いになり、冷たい風の感触になり、労せずして作品世界に没頭する事が出来た。これは著者の才能だけでなく、訳者の力量にもよるのだろう。読後の満足感は100点満点、久しぶりに美味しい物をお腹いっぱい食べたような気分である。

2020年2月26日水曜日

猫SF



最近読んだ本



竹書房文庫

猫SF傑作選
猫は宇宙で丸くなる

シオドア・スタージョン、フリッツ・ライバー他
中村融 編


株式会社竹書房
2017年9月7日  初版第一刷発行



   猫にまつわるSFとファンタジーを集めたアンソロジー。


収録作は10篇



〈地上編〉


「パフ」
ジェフリー・D・コイストラ

    登場する猫の名前は「パフ」。マシュマロを自分で焼いて食べるのが好きなトラ猫の雄。


「ピネロピへの贈りもの」
ロバート・F・ヤング

   猫の名前は「ピネロピ」。ミス・ハスケルから貰うミルクが好きな灰色猫。


「ベンジャミンの治癒」
デニス・ダンヴァーズ

  猫の名前は「ベンジャミン」。永遠の4歳で脚に白い長靴を履いたような灰色の縞猫。去勢済み。


「化身」
ナンシー・スプリンガー

猫の名前は「フレイヤ」。北欧神話の女神の化身で黄金色の猫。


「ヘリックス・ザ・キャット」
シオドア・スタージョン

  猫の名前は「ヘリックス」。金庫破りをして射殺される喉と足先の白い黒猫。



〈宇宙編〉


「宇宙に猫パンチ」
ジョディ・リン・ナイ

   猫の名前は「ケルヴィン」。宇宙船パンドラの保全士。襲ってきたスムート星人の宇宙船を撃退する。しっぽは黒と白。


「共謀者たち」
ジェイムズ・ホワイト

   猫の名前は「フェリックス」。人間の目を盗んで実験動物のネズミとモルモットたちを宇宙船から脱出させようと画策する黒猫。


「チックタックとわたし」
ジェイムズ・H・シュミッツ

  猫の名前は「チックタック」。その正体は惑星ジョンタロウの土着の知的生物カンムリネコの子供。本来の体毛は黄褐色がかった灰色だが、体の色は自由に変えられる。


「猫の世界は灰色」
アンドレ・ノートン

   猫の名前は「バット」。宇宙作業員スティーナといっしょに旅をしている灰色の雄猫。


「影の船」
フリッツ・ライバー

    猫の名前は「キム」。宇宙船ウインドラッシュの住民でネズミとりの名手。黒猫。



   この前読んだ「夜の夢見の川」と同じくシオドア・スタージョンの名前に惹かれて買った本だったが、他の作品も面白かった。
   この中で特に傑作だと思ったのは、デニス・ダンヴァーズの「ベンジャミンの治癒」。自分の飼っている猫が不老不死である事をひた隠しにする主人公と、彼の人生の最期まで添い遂げようとした猫。軽妙な語り口だが、結末には泣きそうになった。次に良かったのはフリッツ・ライバーの「影の船」。目的を見失い彷徨う宇宙船の中で、記憶と視力を失くした主人公が見た退廃した世界の物語。フリッツ・ライバーといえばガミッチという名の猫が登場するシリーズが知られているが、それとは全く違うタイプの話だった。


   最近自分は活字を読むと眠くなる病気に罹っていたが、この本を読んだおかげで少し治ってきたような気がする。まだ読んでない本が部屋に何十冊と積んであるので、片っ端から読んでいこうと思う。さて、次は何を読もうか。



2020年2月11日火曜日

奇妙な味


今日読み終えた本


創元推理文庫
12の奇妙な物語
夜の夢見の川
  著者  : シオドア・スタージョン、G・K・チェスタトン=他
編者  :  中村  融


2017年4月28日 初版
株式会社東京創元社  発行


「奇妙な味」をテーマにしたアンソロジー。

収録作は以下の12篇。




「麻酔」
クリストファー・ファウラー

歯科医になりすました殺人鬼の話。



「バラと手袋」
ハーヴィー・ジェイコブズ

偏執狂的収集家の話。



「お待ち」
キット・リード

とある田舎町の異様な性風俗の話。



「終わりの始まり」
フィリス・アイゼンシュタイン

   死んだ母親が1日だけ死んでなかった事になる話。



「ハイウェイ漂泊」
エドワード・ブライアント

高速道路にまつわる大学教授のオチの無い話。



「銀の猟犬」
ケイト・ウィルヘル

ノイローゼの主婦が自分になついている野良犬を射殺する話。



「心臓」
シオドア・スタージョン

   別れた男の心臓だけを呪ったらその男が心不全で死んでしまった話。



「アケロンの大騒動」
フィリップ・ホセ・ファーマー

死人を蘇生する詐欺師達の話。



「剣」
ロバート・エイクマン

とある行商人の不思議な初体験の話。



「怒りの歩道 ー 悪夢」
G・K・チェスタトン

あらゆる物に敬意を払う変な男の話。



「イズリントンの犬」
ヒラリー・ベイリー

しゃべる犬が家族の秘密をばらす話。



「夜の夢見の川」
カール・エドワード・ワグナー

精神病の女の妄想話。





   3年近く前に出版された本だから、この程度のネタバレは赦して欲しい。どの作品も読んだ後でモヤモヤが残ってスッキリしない話ばかりで、人によって好き嫌いが分かれると思う。自分はシオドア・スタージョンの名前にひかれて買ったので、他の作品はオマケみたいなものだったが、飽きずに最後まで読む事が出来た。