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2021年5月8日土曜日

宗寛の剪定鋏 その2

 

宗寛
剪定鋏
特製A型18cm



  ▲メルカリで中古の剪定鋏を購入した。宗寛の鑞付けのA型である。
   出品者様は岐阜県で庭師をされている方で、去年1月にも丸清の剪定鋏でお世話になっている 。

   宗寛の鑞付けの鋏は、去年10月にやはりメルカリで初めて出会って以来、これで3梃目になる。




▲入手順に番号をふってみた。
    ①と②は立バネが付いているが、③は虫バネが付いていて、そもそも立バネを取り付ける事が出来ない。




  ▲切刃の平にある宗寛の刻印を見ると、①と②は同じだが、①は欠けた部分があるので、②より①の方が新しいと思われる。③の刻印は書体が違う。また、①と②の左のほっぺたにあるAの刻印はそれぞれ違う物が使われていて、③には刻印が打たれていない。




▲受刃の特製の刻印も3梃それぞれ違っている。
総合的に考えて、この中では①が1番新しく、③が最も古いのではないかと思う。

   製造元は、おそらく3梃とも工藤製鋏所の工藤清吉氏だと思うのだが、確信はない。









▲3梃とも箱の中に同じチラシが入っていた。
   写真は阿武隈川宗寛氏。初代の泰竜斎宗寛ではなく、四代目である。
   昭和43年と記されているので、それ以降に作られた鋏である事は間違いない。




▲チラシの裏面の説明文。



「サンケイ新聞掲載」

わが国には、伝統的な手仕事によるきめの細かい芸術が
少なくありません。それらは人間と深く結びつき磨きあ
げられた個人の技術でありしみじみとした味をもってお
ります。
これらのすぐれたひとびとと、その技術をご紹介する、
「名人作家シリーズ」のひとつとして、鋏師阿武隈川宗
寛展を開催いたします。

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「名人阿武隈川宗寛について」

    阿武隈川家の始祖・初代阿武隈川宗 寛 (泰竜斉宗寛)
は白河藩主のお抱え刀匠として栄えてきた。
    しかし明治維新による廃藩後、世をあげて西洋文化へ
と走ったため、刀の需要が激減したので刀ひとすじの生
活から洋風刃物へと移った。それが洋鋏(理髪用、ラシ
ャ切り用、剪定用)で、当時は鋏の製作にかなり苦労し
たようである。最初の試作は、フランス製を手本にした
が、生まれが刀匠のため、鋏も刃金と棟金を別々に鍛え、
さらに焼刃土までつけていた。明治中期になって金鋼製
に改良され、当時としては画期的な革命であった。
    現在の宗寛氏は四代目にあたり父鉄次郎寛次によって
きたえられた技術は、他の追随をゆるさず、宗寛の剪定
鋏として全国の果樹・園芸家から称賛を博している。
    卓越した技術は剪定鋏作りの名人として知られ、いま
だに昔ながらの手作りに生き甲斐を感じ、剪定鋏一筋に
生涯をかけている。
    宗寛氏とはそのような人である。

                                                   山形打刃物工業協同組合
                                                                理事長 松本安太郎



















2020年10月17日土曜日

宗寛の剪定鋏

 
宗寛
特製A型18cm


    メルカリで「宗寛」の古い剪定鋏を入手した。古いとは言っても使用形跡の全くないデッドストックである。

   「宗寛」は山形県山形市成沢にある「総本家阿武隈川宗寬刃物工場」の商標だ。









▲刃を開くと、あまり開きすぎず程々の所で止まってくれる。







  ▲刻印は切刃の平に「登録商標  宗寛」、左のほっぺたに「A」と打たれている。






▲受刃には「特製 本家」の打刻。







▲そして実はこの鋏、切刃・受刃共に鑞付けになっている。





▲分かり難いので別の角度からも。






    ▲現在の宗寛の剪定鋏は他社で製造した物を仕入れているので、このような鑞付けの剪定鋏は無い。もしかしたらこれは、かつて阿武隈川宗寛が自前で鋏を作っていた頃の製品だろうか?





  と思ったのだが、この形には見覚えがある。今年1月に入手した「丸清」の古い鑞付けの鋏に似ているのだ。




▲左が「丸清」で右が「宗寛」。長さは違うが、形状はほとんど同じである。ただ、ほっぺたの「A」の打刻が違っている。やはり単に形が似ているだけで、これは宗寛のオリジナルなのか?





   と思ったが、先月買ったばかりの丸清の鑞付けでないA型を確認したところ、同じ刻印が使われている事が分かった。


▲左が「宗寛」、右が「丸清」。刻印の欠けている部分もまるっきり同じ。という事は、やはりこの鋏も丸清こと「工藤製鋏所」で作られた物で間違いないようだ。

    でも、刻印自体はそんなに高価な物ではないはずだから、欠けの無い新しい物に取り替えれば良いのに、同じ刻印をずっと使い続けているのは何故だろうか。尤もそのおかげで製造元を辿る事が出来たわけだから、自分にとってありがたい事ではあるのだが。







2018年3月29日木曜日

今日の剪定鋏 11

  マルマン佐藤  剪定木鋏 AG-15
  (後編)




「たった1つの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は『酩探偵かねぽん』!」

  前回のあらすじ。
   かねぽんは、ある日偶然立ち寄ったホームセンターにおいて、1本の見慣れない剪定鋏と出会った。彼は「マルマン佐藤」と名乗っていたが、彼の正体を不審に思ったかねぽんは、調査に乗り出した。彼の正体は果たして…。

  まあ、正体も何も最初から「工藤製鋏所」で作った物だろうとアタリは付けていたんだけど、一応ちゃんと確認しておこうと思って、買ってみたよ、ほら、「丸清」印の片手刈込鋏裏スキ。















   2つを比べてみると、全体の形は同じだって事が分かる。左が「丸万」で右が「丸清」。刻印の他に違う点は、「丸清」の方は金止になっていて、刃に裏スキが施されている事。
  ついでにもう1つ、気になる鋏があったので取り寄せてみた。(楽天のポイントを使ったのでお金は払ってない。)
   「宗寛」の「根切兼刈込長刃」
  3つ並べてみると殆んど形が同じだという事が分かる。ただ「宗寛」には裏スキが無い。
  それぞれの刻印はこんな感じ。上から「マルマン佐藤」「工藤製鋏所」「阿武隈川宗寛刃物工場」














   これで「丸万」の「AG-15」と「宗寛」の「根切兼片手刈込長刃」の製造元が「丸清」こと「工藤製鋏所」である事は証明出来たと思う。だがそれぞれ微妙な所が違っていて、製品ごとの個性を出しているのが面白い。


  ~~エピローグ~~
  いつものように立バネを虫バネに交換してみた。みんなお揃いでなんか可愛くなったような気がする。

   酩探偵かねぽん、次回も(やるかどうかわからんが)お楽しみに!

2018年3月3日土曜日

今日の剪定鋏 9

  宗寛  特製A型20cm金止














  たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は「酩探偵かねぽん」。

   さあ、皆さんお待ちかねの、剪定鋏の世界の謎を解明するコーナー(笑)がまたやって来た。

  今回取り上げる謎は、「宗寛」の剪定鋏だ。

  「宗寛」は、山形県山形市にある「阿武隈川宗寛刃物工場」の登録商標である。
   「阿武隈川」というと、他にもうひとつ、「有限会社 阿武隈川製作所」が東京都台東区にあった。「阿武隈川」の酩が入った剪定鋏を作っていた会社である。
   東京と山形、何故ふたつの阿武隈川があるのか。詳しい事情は分からないが、どうやらお家騒動的な出来事が有ったらしい。
   東京阿武隈川から創業者の四代目、阿武隈川宗寛氏が逐われ、腕の立つ職人が大勢いた山形で再び興したのが「阿武隈川宗寛刃物工場」だったようだ。














  その後、東京の「有限会社 阿武隈川製作所」は廃業し、今「阿武隈川」の商標は、埼玉県三郷市の「株式会社 刀舟技研」が所有している。まだ「阿武隈川」の刻印を打った剪定鋏は市場に存在しているが、おそらく東京や埼玉で製造した物ではないだろう。















  で、本題の「宗寛」のA型剪定鋏だが、実は昨日紹介した「光月」や「丸清」のA型剪定鋏と同じなのである。
(画像中央が『宗寛』、右が『光月』、左が『丸清』)
  という事はつまり、














  「宗寛」のA型は「光月」のそれと共に、山形の「工藤製鋏所」で作られている、という事になる。
  何故その事に気付いたかというと、「やまがた企業等情報データベース」に「阿武隈川宗寛刃物工場」の取引先として、販売先(受注先)の欄に「株式会社 五香刃物」が、そして仕入先の欄には五香刃物と「有限会社 工藤製鋏所」が記されていたからである。
 








   さて、ここからは推測だか、「光月」のA型は阿武隈川宗寛刃物工場が工藤製鋏所から鋏を仕入れ、それにミラー仕上げやクッションばねを付加して「光月」の刻印を打ち、五香刃物に卸した物ではないだろうか。今の工藤製鋏所の製品でその手の加工をした物が見当たらないのでそんな推理が成り立つのである。

   今日もまた、謎がひとつ解かれ、真実が明るみになった。
   しかし、まだ剪定鋏の世界は多くの謎に満ち、深い闇に閉ざされている。いつか全てが白日の下に晒される時は訪れるのだろうか。

  「酩探偵かねぽん」、次回もお楽しみに!
 

  (今日が最終回という可能性もあります)